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福岡高等裁判所 昭和52年(行コ)2号 判決 1978年10月26日

熊本市東町三番一五号

控訴人

熊本東税務署長 後藤俊夫

右指定代理人

中野昌治

三島敕

坂元克郎

太田幸助

平野多久哉

井寺洪太

熊本県上益城郡矢部町下馬尾三四四番地

被控訴人

坂本袈市

右訴訟代理人弁護士

山田一喜

右当事者間の所得税更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから(ただし、原判決五枚目九行目末尾に「(第一七ないし第二二号証、第二三号証の一、二は写)」を、原判決六枚目表五行目末尾に「(第五号証の二ないし八は写)」をそれぞれ加える)、ここにこれを引用する。

1  控訴代理人は、予備的主張として次のとおり陳述した。

所得税法(昭和四八年法律第八号による改正前のもの、以下同じ)第五九条第一項第二号及び同施行令第一六九条によれば、譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額で資産を譲渡した場合には、その時における価額により譲渡があつたものとみなされることになつており、右規定の適用を免れるためには同条第二項、同施行令一七〇条により「贈与等に関する明細書」を税務署長に対し提出することとされている。被控訴人は、昭和四六年九月四日、本件に関し右明細書を御船税務署長に対し提出しているから、被控訴人の主張する本件土地の売買価額一〇〇万円が時価の二分の一以下であることを認めたものというべきである。ところが、右明細書には、同施行令第一七〇条に定める譲渡を受けたものの確認がなされておらず、同法第五九条第二項は適用されないから、仮に本件土地が被控訴人主張のとおり一〇〇万円で売買されたとしても、同法第五九条第一項第二号により時価で譲渡があつたものとみなして譲渡所得を計上すべきことになる。そうして本件土地の昭和四二年一〇月二〇日現在の時価は、本件土地の近くに所在する宅地の売買実例を基準とし、時点、地域による修正を加えて算定すると五五四万四二一〇円である、

2  被控訴代理人は、右予備的主張に対し次のとおり陳述した。

右予備的主張は時機におくれた攻撃防禦方法であるから、却下することを求める。

仮に却下されないとしても、本件は現実に六〇〇万円で譲渡されたという認定のもとになされた更正処分であるから、所得税法第五九条第一項第二号にいうみなし譲渡所得ということで課税するのであれば、あらためて更正処分をなすべきである。

本件土地の時価は争う。

3  新たな立証として、被控訴人は甲第二四号証を提出し、当審における被控訴本人尋問の結果を援用し、後記乙号証のうち第二三号証の成立は認める。第一〇ないし第一四号証、第一六ないし第一八号証は原本の存在及び成立ともに知らない、第一五号証は官署作成部分の成立は認めるがその余は知らない、第一九号証の初葉表題上部の記載部分は知らないがその余は認める、その余の乙号各証の成立は知らないと述べた。控訴人は乙第一〇ないし第二一号証、第二二号証の一、二、第二三号証(第一〇ないし第一四号証、第一六ないし第一八号証は写)を提出し、当審証人竹田薫の証言を援用し、甲第二四号証の成立は認めると述べた。

理由

一  本件確定申告、更正処分、重加算税賦課決定処分の各内容、これに対する異議申立、審査請求の経緯、本件宅地二筆の売買に至る経緯についての当裁判所の認定、判断は、原判決理由中の当該部分(原判決六枚目裏初行から原判決七枚目裏五行目まで)と同一であるから(ただし原判決六枚目裏初行の「並びに」から同三行目の「四〇〇円であること」までを削除し、同行目の「及び」の次に「抗弁のうち」を加える)、ここにこれを引用する。

二  原審証人原田礼四郎(第一回)の証言により、成立を認める乙第一号証、右証言及び当審証人竹田薫の証言により原本の存在及び成立を認める乙第五号証の二ないし八、原審証人国武不可止(第一.二回)の証言により成立を認める乙第二号証、第六号証並びに右各証言によれば、本件宅地二筆の被控訴人、原田間の譲渡価額は六〇〇万円、原田国武間のそれは原田及び今村の仲介手数料各一〇万円を加算して六二〇万円とそれぞれ合意されたこと、原田は、被控訴人に対する売買代金はすべて国武から支払われる代金でまかなうことにしていたため、昭和四二年一〇月二〇日五〇万円、同月二三日一〇〇万円、同年一一月一三日一〇〇万円、同月二二日一〇〇万円、同年一二月七日一〇〇万円、同月二七日一五〇万円、計六〇〇万円を、いつたん国武から受領して、もしくは国武が直接、被控訴人に対し支払つたことが認められる。

被控訴人は、右乙第五号証の二ないし八は、後日記入された疑いが強いとしてその信用性を争うけれども、右乙号証の各関係部分を他の記載部分と対比して検討してもべつだんその記載内容について後日改ざんするなどの作為を加えたことをうかがわせるようなところはないし、原審証人原田礼四郎の第二回証言も、原田が本件宅地二筆の譲渡代金、について真実に反する記載をしたという趣旨を含むものではない。また、原審証人永野大次郎、同池田国夫の証言も、同人らの記憶があいまいであるため供述が不明瞭で、右乙号証の記載に何らかの作為があることを疑わせるに足らない。かえつて証人竹田薫の証言及び文書の趣旨形式により原本の存在及び成立を認める乙第一〇ないし第一四号証、証人国武不可止の証言によれば、国武は、本件宅地二筆を買受ける資金を得るため自己所有の山林を売却した外、その頃叔父中川一誠から金員を借用していたことが認められるのであつて、このことは、国武が本件宅地二筆の代金六二〇万円を調達し、うち六〇〇万円が被控訴人に支払われたことを裏付けるに足りるものである。さらに、成立に争いのない乙第八、第九号証によれば、国武は昭和四二年一一月二三日付売買を原因として同月二四日に本件宅地二筆について所有権移転登記を経由したことが認められるところ、被控訴人は本件売買代金が六〇〇万円であるなら代金完済前に所有権移転登記手続をしたことになり不合理であると主張するが、右乙第八、第九号証及び証人国武不可止の証言により成立を認める乙第四号証の一、二並びに同証言によれば、国武は、前記手持資金のほか本件宅地二筆を担保に金策して代金を支払うため、うち金合計三五〇万円を支払つた昭和四二年一一月二二日、残代金二五〇万円について約束手形を振出し、被控訴人の承諾を得て前記所有権移転登記を経由したうえ、同月三〇日渡辺豊久との間で停止条件付代物弁済契約を締結し、同日条件付所有権移転仮登記をして融資を受け、代金の支払にあてたことが認められるのであつて、このことは前掲乙第五号証の五の記載内容とも一致し、同じく本件譲渡代金が六〇〇万円であつたことの裏付けとなるものである。

被控訴人は、原田に対する譲渡価額は一〇〇万円であると主張し、甲第五、第六号証を援用するが、前掲乙第一、二号証、証人原田礼四郎、同国武不可止、同竹田薫の各証言によれば、右甲第五号証は、昭和四三年三月の確定申告にそなえ、同年一月頃税務署に提出するための仮装の契約書として作成されたものであることが認められるし、甲第六号証もこれに付随して作成された疑いがあり、いずれも採用しがたい。また、右主張にそう原審及び当審における被控訴本人尋問の結果も、前記各認定に供した証拠に照らし措信しがたい。

なお、被控訴人は、証人原田礼四郎、同国武不可止の各証言の信ぴよう性を争うため甲第九ないし第二二号証を援用するが、右各号証は、本件売買、所得税申告の後である昭和四九年四月一一日頃及び同年七月二九日頃の本件とは関係のない刑事事件に関する起訴状等であつて、本件の認定判断を左右するものではなく、甲第八号証の一、二も文章自体抽象的であつて、証人原田礼四郎の証言と対比しても本件にかかわりのあるものとは認めがたい。その他以上の認定を左右するにたりる証拠はない。

よつて、本件宅地二筆の譲渡価額は控訴人が認定したとおり、六〇〇万円であると認めるのが相当である。

三  本件宅地二筆の取得価額につき、被控訴人は六八万七〇〇〇円であると主張し、甲第四号証には右金額の記載があるが、右記載自体二度にわたり訂正された形跡があり真実であるかどうか極めて疑わしく、成立に争いのない甲第二号証、文書の方式及び趣旨により全部真正に成立したものと認める乙第七号証並びに原審証人増永敏の証言によれば、被控訴人は、昭和三二年一二月二七日右増永から本件宅地二筆を貸金二五万円の代物弁済として取得したことが認められるから、本件の取得価額は控訴人主張のとおり諸経費を加算して二九万六一三五円であると認めるのが相当である。

四  そうすると、本件宅地二筆及び山林の譲渡価額は六一四万円、取得価額は三一万六一三五円となるから、譲渡益は五八二万三八六五円となり、所得税法第三三条第四項、第二二条第二項第二号により特別控除額三〇万円を控除した額の二分の一が譲渡所得金額になるから、被控訴人の昭和四二年分の譲渡所得金額は二七六万一九三二円になることは計数上明らかである。

五  農業所得六六万六三四〇円、不動産所得二三万九四〇〇円であることは被控訴人の自認するところであるから、これに譲渡所得二七六万一九三二円を加えると、被控訴人の昭和四二年度の総所得金額は三六六万七六七二円となる。

よつて控訴人がした総所得金額三六六万七六七二円、税額八三万二八〇〇円と更正する処分は適法である。

六  以上のとおり、被控訴人は本件宅地二筆を六〇〇万円で原田に譲渡したにもかかわらずこれを一〇〇万円で譲渡したとする土地売買契約書を作成し、かつ一〇〇万円を基準にした譲渡所得金額を計算して昭和四二年分の所得税確定申告書を提出し、もつて国税の課税標準の基礎となる事実を隠ぺいまたは仮装し、その隠ぺいまたは仮装したところに基づき納税申告書を提出していたものであるから、控訴人が国税通則法第六八条第一項に基づき本件重加算税賦課決定処分をしたことは適法である。

七  以上の次第で、本件更正処分及び重加算税賦課決定処分の取消を求める被控訴人の本訴請求は失当たるを免れない。

よつてこれと結論を異にする原判決は不当であるからこれを取消して、被控訴人の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 佐藤秀 裁判官 篠原曜彦 裁判官 大城光代)

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